矢野新監督の下で立て直しが期待された新生タイガース。開幕2連勝と幸先の良いスタートを切ったかに見えたが、それからひと月も経たない間に最下位へと転落した。まだシーズン序盤で悲観する時期でもないが、ここまでの矢野監督の采配ぶりを分析してみよう。
矢野監督の采配ぶりで最も目立つのは、スタメンを毎試合のように入れ替える点だ。4月21日までの21試合で組んだ打順は16通りで、前の試合と同じ打順で戦った試合は5試合しかない。得点力不足が指摘されるだけに、少しでも点を取ろうと苦心していると思いたくなるが、4月7日(9得点)、9日(12得点)、18日(13得点)の翌試合もスタメンを入れ替えている。打順を組み替えた試合はここまで4勝11敗。大量得点の勢いを捨ててまで打順をリセットするメリットは今のところ見えていない。
次に、選手ごとに経験した打順を見てみよう。
糸原 一番(1試合)、二番(11試合)、五番(1試合)、六番(1試合)、七番(7試合)
梅野 五番(1試合)、六番(1試合)、七番(6試合)、八番(11試合)
中谷 三番(1試合)、六番(7試合)、七番(2試合)
糸井 二番(1試合)、三番(20試合)
近本 一番(9試合)、二番(7試合)
木浪 一番(4試合)、八番(7試合)
糸原はすでに5つの打順に名前を連ね、梅野は4つ、中谷は3つ、糸井、鳥谷、近本、木浪が各2つの打順を経験している。打順が変われば果たすべき役割も変わってくるし、試合への準備や入り方も変わってくる。日替わりで打順が変わっている選手はさぞかし苦労しているに違いない。阪神の打力が他チームに比べて劣るのは否めないが、こうした日替わりの打順が貧打に拍車をかけている可能性もある。
同様に、守備も頻繁に入れ替えが行われている。スタメンの守備陣容はこれまで12種類。大山や糸原、中谷、木浪は複数のポジションで先発を経験している。想定外の故障者が出た場合などを除き、これほど守備位置をコロコロ変える采配も珍しい。巨人打線を相手に力投する西の足を3失策で引っ張った21日の試合を含め、“守乱”で負けた試合は少なくないが、もともと守備のレベルが高いわけではない選手たちに複数ポジションを守らせるという金本前監督以来のチーム方針に無理があるのではないかと指摘したくなる。
各選手の兼任状況は以下の通りだ
糸原 二塁、三塁、遊撃
大山 一塁、三塁
木浪 一塁、二塁、遊撃
中谷 一塁、レフト、センター
近本 レフト、センター
植田 二塁、遊撃、センター
兼任選手では中谷が一塁で2失策とセンターで1失策、大山が三塁で3失策、近本がセンターで1失策、糸原がセカンドで1失策を犯している。記録は失策にならなくとも、守備の位置取りや動き、連携プレーのまずさで結果的に攻撃側を助けるような場面も目立っている。1ポジション専任の選手では北條が4失策、上本が1失策を犯している。2人はもともと守備に課題があるが、打力優先で起用されている。北條の守備率に至っては.902しかなく、守備軽視も甚だしい。
開幕前は“リーグ1”とも言われていた強力な投手陣を擁しながら、チーム防御率がリーグ最下位の4.29に低迷しているのは、こうした「守れない」布陣を敷いていることも大きな要因だろう。矢野監督は「上手くなるよう練習して頑張るしかない」と語るが、何年も課題を指摘され続けている選手たちが短期間の練習で変身することを期待するより、用兵を考え直すべきではないか。
阪神は昨年、甲子園で21勝39敗2分と大きく負け越したことが最下位転落の原動力となったが、今年もここまで2勝7敗と危険な香りが漂う。広い甲子園で目指すべきは守りの野球のはずだが、金本前監督は逆を目指して失敗した。矢野監督は捕手出身で守備重視の野球をするとみられていたが、これまでのところは日替わりで打順・守備を組み替える打撃優先の「カネモト野球」をそのまま継承している。「ファンを楽しませる」と公言している矢野監督は、ファンがもっとも見たくないのは前年の轍を踏むことだというのを肝に銘じて、今後の采配を振るってもらいたい。